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腎臓内科医の診療日記 No.74

医学部の学生のうちに自分が専門とする診療科を決めている人もいるけれど、多くは働き始めて最初の2年の研修期間のうちに、色々な診療科を回って決めていく。同期の研修医が次々と専攻を決めていく中、私は結局やりたい事がよくわからなかった。仕方がないので、診療時間どおりに仕事が終わって、夜間や休日に呼ばれにくい診療科を選ぶことにした。深夜残業、休日出勤、緊急呼び出しが当たり前の内科や外科とは異なるタイプの診療科である。平日のアフターファイブや休日は仕事に拘束されず、それなりに楽しい生活になるのではないか。選んだ診療科は、市中病院で2年間の初期研修が終わったあと、3年目に大学病院に戻って専門知識を集中的に学び、4年目から専門医師として再度、市中病院に赴任するシステムだった。

初期研修を終了し、その診療科で働き始めてみると、内科や外科のように緊急入院や重症患者の管理に振り回される事もなく、仕事が一段落した後の休憩部屋で過ごす時間も長めで、夜間や休日は当番日以外は呼ばれなかった。私は勤務時間内の空いた時間にその診療科の専門書を開いてみたが、すぐに眠くなった。今では手元のスマホの動画やSNSで無限に時間潰しが出来るけれど、当時はまだスマホなど無く、無線LAN環境も整っていなかった。職場でインターネットを閲覧できるのは、有線LANでネットに繋がった特定のデスクトップパソコンだけで、今と比べると信じられないほど通信速度が遅くて、解像度の高い写真は開くだけで数十秒かかり、動画は当然見られなかった。

私は、何かネットに楽しいことがないかと、昔の友人の手作りのホームページを見てみたが、多くは更新頻度も完成度も低く、すぐに飽きてしまった。現在もテレビに出ている有名人が開設して大儲けした、当時出来て間もないネット掲示板を同僚から教えてもらったが、何が面白いのかよくわからなかった。同じ診療科の上司の先生は、ネット上で誰かが写真を投稿して別の人がコメントを書き込んでいく画像掲示板サイトを作って、管理人をしていた。別の先生が、あの先生はネットの有名人だよと教えてくれた。その先生が画像を貼って激推ししていた女優がとても綺麗な人だったので、私も一目でファンになった。女優はすぐに引退して消えてしまったが、個人的には、今でも殿堂入りの1人である。おっと、何の話だ?

毎日終業まで適当に時間を潰し、帰宅してからは特に飲み歩くこともなく、休日に遠くへ遊びに行く気にもならなかった。同じ診療科には楽しそうに働いている人も多く、そちら側の問題でも無かった。そんなこんなで半年以上の月日が過ぎ、同期の間で来年の勤務先の事が話題になっていた。年明けには新しい赴任先が発表される。暮れも押し迫ったある日、私は医学書を扱っている名駅の書店に行き、内科医のための胸部レントゲンと血液ガス分析の基礎テキストを手に取った。毎日自分の仕事を終わらせると、貪るようにそのテキストを読み始めた。