糖尿病網膜症
糖尿病網膜症①
糖尿病網膜症は糖尿病に特徴的な合併症であり、進行すれば視力障害をきたし、現在において成人における失明原因に第2位の疾患です。(第1位は緑内障です)初期の糖尿病網膜症の段階では内科的治療が奏功する可能性がありますが、進行した糖尿病網膜症の場合、眼科的処置が必要です。糖尿病では網膜の血管細胞壁の変性、基底膜の肥厚および硝子体内新生血管が生じ、硝子体出血や網膜剝離を起こして視力障害に陥ります。黄斑浮腫は糖尿病網膜症のどの時期にも発生しうる病変であり、単独でも高度な視力障害をきたすことがあります。一方血管新生緑内障は高率に失明につながる末期合併症であります。
糖尿病網膜症②
厚生労働省の報告書によりますと、1型糖尿病では、罹病期間5年未満で17%、15~19年で81%に糖尿病網膜症の合併が認められます。2型糖尿病では罹病期間5年未満で14%、15~19年で57%に糖尿病網膜症の合併があり、15%は増殖網膜症であります。糖尿病網膜症は初期のみならず、進行した段階においても自覚症状を欠くことがありますので、糖尿病の診断が確定、または、糖尿病が疑われる時点で眼科医を受診してもらい、糖尿病網膜症の有無と病期を評価する必要があります。
糖尿病網膜症③
血糖コントロールをすることによって、1型および2型糖尿病患者の糖尿病網膜症の発展・伸展は抑制できます。HbA1c値が正常に近ければ近いほど網膜症の発症・伸展は抑制されます。ですが急激な血糖コントロールにより、一時的に糖尿病網膜症が悪化する可能性があります。具体的にHbA1cの低下速度をどの程度までに抑えるのが良いかは明らかになっていません。進行した糖尿病網膜症があり、糖尿病の期間が長く、HbA1c高値の患者では、血糖を下げる前に光凝固療法等の眼科の処置が必要かもしれません。また、合併する高血圧の治療は網膜症伸展を抑制しますので、高血圧があれば積極的に治療する事が必要です。
糖尿病網膜症④
高脂血症の合併は硬性白斑や黄斑浮腫の危険性を高める可能性があることが報告されており、積極的な治療が望ましいです。糖尿病合併妊娠では糖尿病網膜症の急激な悪化が認められる例があるので、少なくとも、妊娠初期、中期、後期に眼底検査を受けることが進められています。透析に至った糖尿病の症例では、糖尿病網膜症が進行しており、硝子体出血をきたす場合があるので、透析の際、抗凝固薬の使用に検討を要する場合があります。また、貧血が網膜症の危険因子とされており、貧血がある場合は、その治療を行うことが望ましい。現時点では糖尿病網膜症の発症、伸展を抑制する薬剤はありません。厳格な血糖コントロール、血圧コントロール、脂質低下を行ってゆくしかないのです。