糖尿病の予防
糖尿病の予防①
糖尿病になりやすい人として①糖尿病の家族歴がある人②妊娠糖尿病や巨大児出産の既往がある人③境界型④過体重、肥満の人⑤脂質代謝異常⑥高血圧等が挙げられます。なかでも特に重要なのが境界型です。2型糖尿病は境界型を経て発症すると考えられており、境界型を示すものの中には糖尿病予備軍が含まれています。境界型には十分に経過を観察し、糖尿病発症予防のために積極的に介入する必要があります。境界型とは空腹時血糖で110以上126未満、負荷後2時間での血糖が140以上200未満の値のことです。境界型からの糖尿病発症率は正常型からの発症の数十倍になります。境界型の中でも①血糖値の高いもの②糖負荷後のインスリン分泌が低下しているもの③糖尿病の家族歴があるものは特に糖尿病への移行が高いので要注意です。
糖尿病の予防②
肥満は2型糖尿病の発症リスクと強く関連します。この場合BMIが25以上という肥満の範疇に入らないような軽度の体重増加も糖尿病発症のリスクを高めます。また現在の体重だけでなく、過去の最大体重や、成人してからどれだけ体重が増加したかが2型糖尿病の危険因子となります。最近では、体重よりウエストの長さや、ウエストとヒップの比のほうが2型糖尿病との関連が大きいとされています。腹腔内脂肪が糖尿病発症の危険因子とされています。
糖尿病の予防③
運動や身体活動量の少ない生活は糖尿病発症のリスクとなります。逆に、運動習慣は体重への効果とは別に予防する効果があることが、様々な研究から明らかになっています。例えば、米国では年齢40一65歳の非糖尿病の看護師 (70,102人)を8年間にわたって追跡し、運動習慣と糖尿病の発症の関係が調べられています。それによると、ほとんど運動をしない群の糖尿病の発症をⅠとすると、運動を最もよくする群の糖尿病の発症は0.74と低下したと報告されています。糖尿病が生活習慣病と呼ばれる所以はこのことで、まずは生活習慣の改善が糖尿病の予防に大いに役立ちます。運動習慣のない人は、何でもいいですから運動を始めてみましょう。
糖尿病の予防④
エネルギーの過剰摂取は糖尿病の発症の促進因子です。食べ過ぎには十分注意しましょう。最近ではエネルギー量のみならず、何を食べるかも重要であることが明らかにされつつあります。脂質に関しては、トランス型脂肪酸は危険因子となり、多価不飽和脂肪酸は糖尿病発症の予防因子となります。炭水化物に関しては、食物繊維は糖尿病発症の予防遺伝子となります。具体的な食品に関してはまだ、一定の結論には至っておりません。
糖尿病の予防⑤
喫煙は糖尿病発症の危険因子であるとする報告が多いです。習慣的な喫煙は腹部への脂肪蓄積を促進し、インスリン抵抗性を上げます。インスリン分泌能への影響も指摘されています。一方、適度の飲酒習慣はインスリン感受性をよくして、糖尿病の発症には抑制的に働きます。しかし適量を越えると発症を促進します。わが国における中年男性の追跡調査では、肥満の場合、中等量のアルコール摂取(29.1~50.0ml/日)では糖尿病の発症が非飲酒者に比して低いという結果でした。一方痩せた人では、50ml/日以上のアルコール摂取者では糖尿病発症が高くなっています。ですから、禁煙に努めて、アルコール摂取は適度にしてください。
糖尿病の予防⑥
糖尿病を発症する危険の高い人たちに生活習慣の修正や薬物授与により、糖尿病の発症を遅延あるいは予防できることを示す研究成績が多く報告されています。
フィンランドの研究では、家族歴があり、肥満のあるIGT(耐糖能異常、即ち境界型)に生活習慣に介入しました。介入開始1年目の時点で介入群の43%が5%を超える減量に成功しました。4年後の糖尿病の累積発病率は無介入群で23%、介入群で11%と介入により糖尿病の発症は58%抑えられました。このように比較的軽度の体重減少でも糖尿病発症の抑制に十分有効であることが示されました。また、1年目の時点で5つの行動目標 (5%以上の減量、脂肪摂取30%未満、飽和脂肪酸10%未満、食物繊維15g/1000Kcal以上、運動4時間/週以上) の成功スコアが多いものほど、糖尿病の発症率は低かったという結果が出ました。
糖尿病の予防⑦
我が国においても耐糖能異常者に対する生活習慣介入研究が行われています。健診で耐糖能異常と判定された中年男性を無作為に生活習慣に介入する群と非介入群に分け4年間の追跡調査が行おれました。4年後の体重減少は非介入群で0.4kg、介入群では2.2kgと介入群でより体重減少効果がありました。4年間の糖尿病発症率は非介入群9.3%に対し、介入群は2.9%と低率でした。このように生活習慣による介入により、糖尿病の発症を抑制あるいは遅らせることができます。